2024年第96回アカデミー賞でエマ・ストーンが主演女優賞を獲得した映画「哀れなるものたち」は衝撃的な作品でした。エマ・ストーン演じるベラは、天才医師によって自殺から蘇った女性です。彼女の脳には自身の体内に宿していた子どもの脳が移植されるという設定です。身体は大人で頭脳は幼児という人間が、世間の常識、慣習などと接しながらどのように振る舞い、変化していくかが独特の切り口で描かれています。洗練、良識、建前を掲げつつ裏でエゴを丸出しにする「哀れなるものたち」は、感じるまま、意のままに振る舞うベラに振り回され続けます。
この映画で描かれた時代はマリア・モンテッソーリがイタリアで子どもの教育に一石を投じ始めたころに重なります。彼女は、それまで教育の効果がないと思われていた要配慮児が緻密な作業をする様を見て幼児期の教育環境に新たな視点を持ち、後にそれを現在まで続く教育体系にまとめていきます。
夏休みにモンテッソーリ学会が横浜で開催され、さまざまな研究発表がありました。100年前にマリアさんが手探りで形作っていったものが、現代の医学、科学、教育学など最新の知見で分析、検証され、改めてその効果が絶大であることが証明され続けています。
マリアさんがベラと出会っていたらどうだったでしょう。きっと最大の興味を持って熱心にベラの行動観察を続け、人の成長発達に関してまた一つ知見を加えていたことでしょう。ベラは最後には医師の知識、技術を身につけるまでに成長します。マリアさんが最初に観察した子どもと同様、「哀れなるものたち」は誰一人もベラがそんな能力を持つとは思っていなかったのです。
園長 永井 洋一