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ゆきわり草5月号

2024年5月8日(水)

行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。
よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまることなし。
世の中にある人とすみかと、またかくの如し。

----ご存知、鴨長明による「方丈記」の冒頭部分です。
川のよどみに泡ができては、はじけて消えている。そうした瞬間ごとの小さな変化がある傍らで、川の本流は絶えず流れ続けている。泡はまるで人生のようであり、川は悠久の時の流れのようだと看破した鴨長明は、現代の科学で整理された「動的平衡」という概念を1200年代の鎌倉時代に察知していました。

動的平衡とは、同じものを維持するために、その内部では常に変化が継続されている、ということです。例えば人間の体は約7年かけて全ての組織がリニューアルされるのだと、かの養老孟司先生の本に書いてありました。7年前の自分と今の自分は体組織的にはまったく別物に入れ替わっているのですが、他者から見ればずっと同じ人物です。毎日、細胞単位の小さなリニューアル、つまり動的な変化を繰り返しながら、一方で「同じ人」という平衡を維持しているというわけです。

人が7年ごとにリニューアルされるということは、最年長でも 6歳の園児たちは、誰一人として生まれてから一度も体組織の全体的な入れ替えを経験していないわけです。言い換えると、幼稚園時代は人生最初の人体リニューアルのまっ最中ということになります。子どもたちの中で人生の最初の「生まれ変わり」が進行している中で色々な刺激を与えるのが幼稚園...そう考えると、私たちに負わされた責任の重大さを再認識します。

少し前まで、甘えてぐずって毎日のように周囲にとりなしてもらっていた子が、小さな新入園児の手を引いて「お兄ちゃん風」を吹かせている姿から、彼の中に何らかの「動的」な変化があったことを感じます。見た目はまだ甘えん坊のままの「平衡」を保っているのに...。
今、右も左もわからずにお兄ちゃん、お姉ちゃんに手を引かれている年少児たちも、体内で動的平衡を進めながら成長し、やがて同じ顔をしていながらも年長者の振る舞いができるようになるのでしょう。 

 園長  永井 洋一

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