「天高く、馬、肥ゆる秋」という表現には、過ごしやすい秋が来て、晴れわたった空の下、秋の味覚が豊富に実って食欲が増し、馬さえもたくさん食べて太ってくる、というのどかで平和な日々のイメージがあります。しかし、この表現はもともと、そのように穏やかな日常を表したものでありませんでした。
由来は中国、前唐代の詩人・杜審言が記した「漢書」で使われた言葉「雲浄妖星落 秋高塞馬肥」にあります。秋になり雲が澄んで不吉な前兆を示す星が流れ落ちてくる頃になると、(北方の国の)馬が逞しく育つ。言外に「それに乗った敵が攻め込んでくるから注意しろ」という警告が含まれているのだそうです。当時、北方で勢力を伸ばしていた騎馬民族「匈奴(きょうど)」が秋になると南下して収穫物を略奪しにやってくることが頻繁にあったため、秋になると常に侵略に備えて身構えておく必要があったのです。
さて、当時の馬は食べて大きく育つほどに良くも悪くも人間に役立つ働きをしていたようですが、現代の競走馬はどうなのでしょう。逞しくなるほど速く走れるようになるのでしょうか。競争馬の体重は約450kgから550kg。馬体重と勝敗の結果を分析した研究によると、やはり筋肉量が多く体重が重い馬の方が勝つ確率が高い傾向にあるようです。
ただし、馬ごとの適正体重があるようで、前回のレース時に比べてどれだけ体重が増減しているかは、勝敗予想の重要なポイントになるようです。減っていれば体調を落としている可能性があり、増えすぎていればトレーニングで絞りきれていない可能性があるということで、このあたりは人間のアスリートと同じですね。
オリンピックの短距離走者は皆ボディビルダーのように筋骨隆々。彼らは強い筋力で風のように速く走りますが、その筋力の強さゆえに常に肉離れなどの怪我に悩まされます。レーシングカーも大排気量で300kmを超えるスピードで走りますが、私の乗っている自家用車よりもずっと頻繁にマシントラブルを起こします。競走馬も同じで、馬体重が重いほど足への負担がかかるので怪我も多くなるのだそうです。
並外れた力を持つということは、並では経験しない問題も抱えることになるのですね。何事もハイリスク・ハイリターン。10月22日には菊花賞が、29日には天皇賞があります。馬たちの体重に注目しながらレースを見るのも面白いかもしれません。
園長 永井 洋一