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ゆきわり草3月号

2026年3月13日(金)

 松任谷由実さんの名曲「春よ来い」は「淡き光立つ俄雨、いとし面影の沈丁花、溢るる涙の蕾から、ひとつひとつ香り始める…」と歌い出します。アレンジを担当するご主人の松任谷正隆さんが、歌詞を入れる段階でユーミンに「この曲は歌い出しを”淡き”という言葉にして」と指示したのを受けてつくられたのが、あの美しい表現です。

 沈丁花は早春に咲く芳醇な香りのする花で、クチナシ、キンモクセイと並んで三大香木と言われています。その沈丁花の花が淡く光るにわか雨に濡れて、小さな蕾からは涙のように雫が滴っている。滴る雫の一つひとつから少しずつ春が香り始める---なんという素敵な表現でしょう。「“淡き”で始まる歌詞を」と注文をつけられただけで、音符割(文字数)の制限がある中で、こんなに卓越した表現を生み出すなんて、ユーミンの天才的な感性にはただ脱帽するしかありません。

 ユーミンは最新のアルバムでAIとの共生を果たしました。AIが「荒井由実」時代の声に現在のユーミンの声をミックスした声を作り出し、それを一人の歌い手として楽曲に参加させたのです。AIユーミンと本物が交互に歌うところがあれば、一緒に歌うところもある。AIユーミンだけがしばらく歌い続けるところもある。なかなかおもしろい試みです。

 歌唱に関してはAIがかなり活動の幅を広げてくれそうですが、歌詞はそうはいかないようです。500曲にも及ぶユーミンの曲を全てAIに学ばせ「このメロディーに松任谷由実らしい歌詞をつけろ」と指示すると、なるほどユーミンが書きそうな詩が提示されたそうです。ところが本人曰く「それは過去のデータから生まれたものだから、まったく新鮮味のないものだった」とのこと。今を生きて、今を感じている自分の感性を反映させることはAIにはできないのです。

 確かにAIに「“淡き”で始まる歌詞を」と指示しても、あの表現は絶対に出てきませんよね。歌の後半には「夢をくれし君の、眼差しが肩を抱く…」という表現がありますが、眼差しが肩を抱いてくれるなどという感性も絶対にAIにはつくり出せません。「改めて0から1をつくるのは人だと思いました」とユーミン。そのとおり。

 そして、今の私たちの気持ちも「春よ来い」です。

                                                                                               園長  永井 洋一

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