2021.6 園長 永井 洋一
6月に差し掛かり梅雨の気配がすると、さだまさしさんの「つゆのあとさき」という歌が思い浮かびます。この曲のサビ部分は♪つゆのあとさきの、トパーズ色の風は、遠ざかる君の後を駆け抜ける…と歌われます。「トパーズ色の風」とは、どんな風なのでしょう。♪折からの風に少し、心の代わりに髪ゆらして…♪倖せでしたと一言、ありがとうと一言、僕の手のひらに指で君が書いた記念写真。君の細い指先に不似合いなマニュキュア。お化粧はおよしと、思えばいらぬおせっかい…と歌われている歌詞から想像できるのは、単純な悲しい別れではない、女性の成長と希望への期待が織り交ざった繊細な別れの感覚です。トパーズという宝石は真っ赤なルビーや鮮やかなグリーンのエメラルドなどとは違い、たくさんの淡い色相を持っています。さださんはきっと、「僕」と「君」の間にある単純には描き切れない微妙な心理の揺らぎを「トパーズ色の風」という言葉で表したのでしょう。
Jポップ作詞の第一人者、松本隆さんは実際には存在しなかった「赤いスイートピー」と書くことであの名曲を仕上げました。ヒットの後で種苗業者の品種改良がなされ、実際に赤い色をしたスイートピーが生み出されました。松本さんは「映画色の街(瞳はダイヤモンド)」「瑠璃色の地球」など、実際には存在しないけれどイメージは豊かに湧いてくる歌詞を数多く生み出しています。井上陽水さんは「少年時代」という歌の中で♪夏が過ぎ、風あざみ…と歌っています。「風あざみ」って何?…実はそんなものは存在しません。陽水さんが作り出した晩夏のイメージです。陽水さんは「帰れない二人」でも♪街は静かに眠りを続けて、口癖のような夢を見ている…と歌っています。「口癖のような夢」…? 国語的につじつまが合わない表現ですね。でも「僕は君を…」と言いかけた時に街の明かりが消えてしまい、続きを言い出せずに戸惑っている「僕」の前で、日常は淡々と平然と何事もないように流れていく様子を「口癖のような夢」という表現で表しているのではないかと思います。
歌詞は短い言葉の中にいろいろな思い、情景を織り込まねばなりません。巧みにつくられた歌詞は、国語的にあり得ない表現を用いたり、実際にないものをつくり上げたとしても、メロディーに乗せて歌われたときに、きちんと心に響く何かを残してくれます。
さて、話はかわってぎんれい音頭。募集に応じて数多くの有志から歌詞が寄せられたそうです。教員たちはそれらの応募作から、これぞと思う表現をピックアップしてつなぎあわせ、メロディーに乗せて歌を完成させるために頑張っています。幼稚園のイメージ、子どもたちの笑顔と躍動する姿、四季折々の行事…さてさてどんな言葉が選ばれ、短い表現の中にどんなイメージが盛り込まれるのでしょうか。
先ほど挙げたいくつかの歌詞は1970年代から80年代にかけて作られています。この中で一番、新しい「少年時代」でも1990年の作。30年、40年たった今でも色あせない表現力は、ただ素晴らしいというほかありません。ぎんれい音頭も30年、40年たっても「いい曲だね」と言われるようになってほしいですね。