トピックス

クーデターと不登校(ゆきわり草9月号)

令和元年8月23日(金) 園長 尾﨑 春人


令和元年の盛夏を皆様如何過されましたか。人類が承知の上で招いた結果とはいえ、どこで何をしていようが耐え難い夏日が夜まで続きました。折角のお盆休みを台風9号、10号に足を掬われた方もいらっしゃるかも知れません。私は高齢者らしくテレビのアナウンサーのお勧め通り、27度にセットしたエアコンの在る部屋に篭り、犬とテレビを相棒に、ゴボウ茶をチビリチビリ、正に隠遁(いんとん)者の日日を体験致しました。

そんな極暑を更に暑くする出来事が2回飛び込んできました。最初は8月15日の夜NHKテレビで放映した、特別番組≪2・26事件≫の全貌でした。何故特別が付くのかは不明ですが、“全貌”とは視聴後に解けました。今日までに私達が理解していた2・26事件史は全体の1/2に過ぎないことにショックを受けた方も多いと想像できます。

2・26(昭和11年)事件発生の4年前、首相官邸を襲い犬養総理を射殺する5・15事件を経験している海軍将校らが、2・26事件の一部始終を密着取材していたのです。しかも事件の進み状況では、東京湾は芝浦沖に巡洋艦隊を浮べ、巨砲を発射できる態勢と海軍陸戦隊が陸軍の反乱軍1500人といつでも交戦できるよう対峙(たいじ)していたといいますからおどろきです。その詳細を取材したのが海軍側であり、しかも事件発生後83年の間秘密を守り通したことに加え、特別番組の終章のナレイションとして、「それ(2・26事件)以後、政治家の存在と発言力が急速に弱まり~」のフレーズが耳に飛んできた瞬間、おどろきを越えて、昭和史の鈍(おぞま)しさを再認識できました。


同様の二つめの経験は、8月20日の新聞(よみうり)が報じた“不登校児14万4031件”(2017)の大見出が目に飛び込んできた時です。ご存じの通り、文科省の「問題行動・不登校調査」は不登校の主原因は、いじめと決めているようで、同年のいじめ件数を30万8000と発表しています。単純計算すると、小中高の1校当り1000人実在として何と145校が空家同然なのです。もはやいじめと不登校の因果関係を云々する段階ではなく、現行の学校の在り方自体が問われているといわざるを得ません。

残念乍ら日本の義務教育の制度も内容も資金も、そして主権も文科省や地方自治体の長に在り、教育の内容を示す指導要領は法制化され、教育方法の研究よりも〝如何に指導要領通り実践するか″に現場の指導者は忙しい毎日のようです。

半世紀以前に公立校の危機を抱えた米国は、崩壊した公教育の再建のための改革を何度となく試みます。共和党政権に成ると後退するという現象を繰りかえし乍ら、質の低い民主国に成り下っています。幸い教育の主権は合衆国政府(大統領も含む)になく、50の州政府に置くことを憲法に定められているため、日本国の様に国家による教育の統制、教科書検定、指導方法の画一化、経済産業界が主導する中教審などの参入を許す事例は少ないと言われます。

「2・26」以後という日本史の表現を借りると、平成9(1997)年に最高裁が家永教科書訴訟に下した「国家による教科書検定は合法」という反憲法の判決以後、公教育の主権は被学習者(学童生徒)にはなく、自治体の長、横浜市では市長の手に移ってしまったのです。低投票率、無投票当選などの現象も無関係ではなさそうです。

先ずその辺りから意識改革が求められるのが、不登校数が警告する、日本の学校と教育構造の見直しであろうと思うのです。


トピックス一覧

TOPへ